マジカレード(前編) 〜magicalead〜
著者:shauna


時刻は午後5時半すぎ。ミーティアは約束通り、シルフィリアの泊っている貴賓室の前に居た。私服姿で見つかるとマズかったので未だドレスのままだが、外出するのならいつもの貫頭衣の方が良かったか?そんなことを考えながら、部屋の豪華に装飾された扉を3回叩いた。
 しかし、返事がない。お父様に呼び出されて出掛けているのだろうか?恐る恐るドアノブを捻るとそれほど力をかけずに回った。どうやら鍵はかかっていないらしい。
とりあえず居ないにせよ中で待たせて貰う事にしよう。そう思い、ドアをあけ中に入った。
 中は相変わらず無駄に豪奢な部屋だった。一流職人の作ったカーペットに机や椅子等の家具はすべてアンティーク。調度品もすべて美術館にありそうなぐらい品位のある物ばかりで、机には薔薇の花が生けてある。全体的に臙脂色をしたその部屋はいつ来てもどうにも落ち着かない。
 中はバスルームなどを除いて5つの部屋から成り、まず最初の大広間にはシルフィリアの姿は無かった。その他にもベッドルーム、衣装室、ダイニング、と見ていくが、どこにも彼女の姿は無い。
 そして、最後の書斎へと入った時だ。
 居た。書斎のローテーブルで部屋に備えつけのチェスをしていた。 
 相手はオレンジの髪の少女。後ろから見ている形なので顔は見えないが、どうやら自分と同じぐらいの歳だろう。そして、その向こう側にその少女を挟んで丁度自分と向かい合う形でシルフィリアが座っていた。
 「ん〜・・・参りましたね〜・・」
 チェス盤を見つめながらシルフィリアは持っていた扇で優雅に自分を仰ぐ。そして、ミーティアが入ってきたのを確認すると咄嗟にそちらに目をやった。
 「すみません。お邪魔しましたか?」
 一応客人がいるようなので、お姫様口調。シルフィリアはそれを聞いてクスッと笑った。
 「構いません。少し遅かったので先に楽しませてもらいました。」
 え?首を傾げるミーティアを見てシルフィリアがニヤける。
それから、相手をしていた少女の方もゆっくりとこちらを振り向く。
 美少女だ。エメラルドみたいな瞳にオレンジ色の髪が良く映え、向日葵色のドレスもよく似合って・・・・
 「えぇ!?」
 思わずミーティアが声を上げる。
 「そうです。構いませんわ。」
 少女はそう言うとクスリと笑った。
 私だ・・。どう見てもそれは私、ミーティア・ラン・ディ・スペリオルだ。
 目を何度擦って見てもそれは間違いなく私だ。顔だけじゃなく、背の高さも声も髪を撫でる仕草も全部・・・。
 口を半開きにしながら見つめるミーティアにもう一人のミーティアとそしてシルフィリアが声を上げて笑った。
 「え?・・黄色のドレス?」
 思わず身を近づけ、マジマジと見てしまう。しかし、どう見ても彼女はミーティア・ラン・ディ・スペリオルだった。唯一違うのは自分が持っていない黄色のドレスを身に纏っている事ぐらいなものか・・。
 「ミーティア様。」
 もう一人のミーティアの言葉に思わず、「誰?」と言ってしまう。
 「どうです?黄色のドレスも中々似合うでしょう?」
 シルフィリアがニンマリと笑いながらそう聞いてきた。だが、とりあえずそんな冗談に付き合ってる暇はない。とりあえず、こいつは誰なんだ!そう聞く前に、もう一人のミーティアが立ち上がって自分の前に立つ。背丈も寸分違わず一緒。なんかもう気持ちが悪い。
 「え?え!?どういうこと?これってなんなの?」
 アセアセしているミーティアをしばらくシルフィリアも楽しんでいたが、やがて種明かしを始める。
「ただの変装ですよ。アリエス様の」
「アリエス?あの付き人のこと?」
ミーティアの言葉にシルフィリアがさらに笑いを強めた。
「フィンハオラン卿ですよ。」
「えぇ〜!!!!」
いろいろショックが重なってちょっと飛びそうだった意識をなんとか持ちこたえさえ、アリエスに(というか自分に)「ごめんなさい」と謝ってからミーティアは話を続ける。なんかやっぱり変な感じだ。
「でも、あの人・・身長も体格も違うし、何より男の人じゃ?おかしい!見てよこのウェスト!最近引き締めてくびれてるコレだけは男の人じゃ真似できない!!」
もう一人のミーティア・・もといアリエスが笑った。
「もちろん、ちょっと細工はした。」
そう言うとアリエスの体が一瞬光に包まれ見えなくなる。そして、光の中から出て来たのは・・・・
父デュラハンだった。
「スペリオルさ。」
再び、ミーティアの姿(ドレスバージョン)へと戻り、アリエスは話を続ける。
「『フォルセティ』っていう羽衣だ。光の魔術の応用で身に纏ってイメージすればその者と寸分違わぬ姿に変装でいる。っていうか変身ね。ああ、ちなみに作ったのはシルフィー。」
ミーティアがシルフィリアの方を見ると、彼女は得意げに手をヒラヒラさせていた。
「彼が舞踏会に出て、私達は城下へ。私達は体調を崩したとでも言っておけば出席しなくても文句は言われません。」
「同時に二つの場所に・・・」
ミーティアの顔がパッと明るくなった。確かにこの方法なら二つの場所に同時に存在できる。これなら城下に行ける!楽しみにしていたサッカーも花火もパレードもアリだ!
「さて、準備しましょうか?」
 シルフィリアが壁に立てかけてあった杖を持つ。長さが大分ある為、天井に当たらない様に気を使わなければならなかった。
「アーティカルタの柱名。フェルトマリアの英名。シルフィリアの名の元にここに召喚す。」
呪文を唱えると同時に杖の先がホワッと優しい光を放つ。
そして・・・
「来たれ!衣類使用精(レディース・メイド)」
ホワホワと杖から3つの光が降りてくる。大きさは全部リンゴぐらいの大きさだ。降りてきた光はやがて形を成していく。光が段々と人の形を成していく。
長い灰色の髪。巫女風のゾロリと長い服。完全に形を成した時、それは美少女だった。まあ、大きさは先程と変わらず小さい頃に遊んだ人形ぐらいのモノなのだが・・・・。
「お呼びですか?ご主人様?」
どうやら知能があるらしく、やけに甲高い声で言葉を話すその精霊は空中にフワフワと浮いて聞いてくる。
「私服を。あとは彼女にも適当な物をお願いします。」
シルフィリアの言葉に精霊は上から下までキョロキョロとミーティアを見回した。
「バニーとかナースとかでいいですか?」
年甲斐もなく、ミーティアがズッこける。
「いいわけないでしょ!!」
「じゃあじゃあ!この際思いっきりミニなビキニとか?」
「あのね・・・」
「いっそのこと、私のオリジナルデザインにしますか?」
「オリジナルデザイン?」
「これです!」
小さな精霊は自信たっぷりに小さなメモを何枚かひらひらさせる。
それを見てすぐにミーティアがブチキレた。
「・・・よーし分かった!!あんた私に喧嘩売ってんのね!!いいわ。5秒で3ミリ以下の厚さにしてあげるから覚悟しなさい!!」
そこにはハッキリ言って・・・もう・・・
「これ着て外に出るぐらいなら下着で繁華街歩き回った方がまだましですよね・・。」
というシルフィリアの言葉通りのデザインが描き連ねられていた。変わった格好な上にどれもこれも壊滅的なまでにデザインがダサい。
「なんであなた変なのばっか進めるの!!!」
「だって・・・」
小さな精霊が落ち込む。
「シルフィリア様が頼んでも着てくれないから・・。」
まあ、そりゃそうだろう。バニーにナースにミニビキニにオリジナルデザイン。そんなのを着るなんてコスプレイヤーで無ければ変態だ。
もうなんか・・・怒る気力も失くす。
「黒のズボンと赤の貫頭衣!あと防寒用にマントか何か頂戴!」
ミーティアの呆れ交じりの指示に小精霊は・・・
「む〜・・おもしろくないです。」
と答えた。
精霊がパチンと指を鳴らし、同時にシルフィリアとミーティアの服が変わる。光に包まれ、シルフィリアの方は白のブラウスに黒のプリーツスカート。
胸元には黄色のリボンを締め、その上には膝ぐらいの長さがある赤のコートを。足元のニーソックスとショートブーツが何か不健全な匂いがするが、まあ、似合ってるので良しとしよう。
そしてミーティアの服装。言われた通り、黒のジーンズと赤の貫頭衣に焦げ茶色のマント。髪もいつのまにかポニーテールに結われ、耳には小さな宝石のイアリングまで付いていた、む〜・・中々気品がある。フザけている割にはいい仕事をするじゃないかこの精霊。
「他に御用はありますか?」
精霊が聞いてくる。
「私はこれで。ミーティア様は?」
「私もオッケー。」
「ではまた御用の際にお呼び下さい。」
精霊はそう言うとポンッという破裂音と共に姿を消した。
「さて、では参りましょうか?」
「うん!アリエス様。後はお願いします。」
「了解。」
ミーティアの言葉にアリエスが微笑んだ。
ミーティアはまるで踊るように扉から外に出ていく。そして、シルフィリアもその後を追った。
「シルフィー・・」
すれ違い様にアリエスが声を掛ける。
「どうにも嫌な臭いがします。私の杞憂で済めばいいですけど・・・一応舞踏会の席でも警戒はしておいてください。」
「武器の使用は?」
「判断はお任せします。」
「・・・・・・了解。」
シルフィリアはそう言うと、緩やかな足取りで外に出ていった。



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